秋めいて来た土曜日、紅葉にはいささか早いが、ふと思いついて家内と奥多摩方面に出かけた。行き先は沢井の「ままごと屋」である。電車に乗る直前に電話をしたところ、予約ができた。ここは、眼下に多摩川の清流が流れていて、眺めがよい。駅前にある澤乃井という造り酒屋が昔からやっているお店である。かつては精進料理のようで、お世辞にも旨いとはいえなかったが、最近はかなり改善されたと聞いていた。座敷に通されて、清流を見つつコース料理を食べるという趣向なのだが、なかなか工夫がみられる。たとえば、近くの玉堂記念館と話をつけたとみえて、テーブルに置かれる紙折敷には、「とつぎゆく はれ着の孫のすぎゆきし 路次にのこれる 白菊のはな」と玉堂の句があるのには、感心した。また、料理の味もなかなかのもので、四季桶の内容は、材料の素の味を生かして舌に絶妙、見て絶品というところである。食べてみて、絶対に後悔しないと保障する。

 さて、それから御嶽渓谷の横の遊歩道を御嶽駅に向かってそぞろ歩きをした。空気はおいしく、コスモスなどの路地に咲く野の花々も美しい。川に目をやると、若人がカヌーをしている。川の流れは速いし、川中にはところどころに大石もある。ぶつかったら、ひとたまりもないと思うが、その中をペダルを上手にあやつって下ってくる。思わず歩くのを忘れて、しばらくペダルさばきに見とれていた。

 再び歩き出し、そこからしばらく行って川に架かる橋を渡り、玉堂記念館に着いた。玉堂は、明治6年生まれの文化勲章受章者で、既に15歳にして、京都に弟子入りし、すばらしく精密な絵を描いていた天才肌の人である。その描いた絵はどれも、なかなか男っぽい。昭和32年に84歳で没したが、晩年にこの地で隠棲したという。スケッチ・ブックがいくつか展示されていたが、確かにとても上手である。また、庭も枯山水を取り入れていて、清冽な印象を受けた。 

          (平成18年10月14日記)




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