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ネットフォース

 

トム・クランシーのネットフォース

(TOM CLANCY'S NET FORCE)
Tom Clancy and Steve Pieczenik
トム・クランシー/スティーブ・ピチェニック共著
熊谷千寿 訳  角川文庫

ISBN4-04-283701-8
 お正月の帰省の車中で何を読もうかと思っていたところ、たまたまトム・クランシーの文庫本を目にした。昔、レッドオクトーバーを追えとかいうサイエンス・フィクションを書いていたなぁと思って題を見ると、「ネットフォース」とある。これは21世紀にふさわしいかと、読んでみる気になった。
 設定は、2010年のネット上のというか、ネット中の犯罪に対抗してFBIの中に作られた「ネット捜査局」と世界的犯罪組織との闘いの物語である。まず、そのネット捜査局司令官が暗殺された。副官のアレックスという人物が代わりに司令官となって旧ソ連のグルジア共和国にあるグロズヌイにいる犯罪組織の親玉プレハーノフと対決する。次々とサイバーテロの攻撃を受け、その闘いの場は、コンピューターで作られた仮想現実の世界である・・・などというと、もう何だかさっぱりわからないが、幸いとても人間くさい連中が出てきて、いろいろと物語を盛り上げてくれている。
 このアレックスというのも、司令官になって親友を敵を討つというのに、あまり仕事熱心な人ではない。家に帰っても、離婚して別居中の別れた妻と子供のことを思って寂しい限りである。その彼に内心惚れ込んでいる補佐役の女性トニーは(空手やテコンドーはもう古いとみえて)、シラット(インドネシアの格闘技)のグル(師匠格)である。また、孤独な女性の暗殺者セルキーという人間も登場する。暗殺の謝礼をためてもう32歳で引退しようという直前の一仕事でよけいなことをして失敗し、その命を亡くす運命にある。その前にこのセルキーによってギャング組織の大ボスがその愛人の家で殺されたり・・・というとますます混乱してくるが、これに局地的軍事作戦も行われて、読者期待のドンバチもある。なるほど、総花的で車中の退屈しのぎにはなった。
 肝心のネットの世界の描き方であるが、この本ではRW(おそらくReal World)つまり現実の世界と、VR(Virtual Reality)の仮想の世界とを話の筋が行ったり来たりしていて、ちょっとわかりづらい。たとえば、VRに入って犯人がヨーロッパ大陸を車で横断し、それを素人の坊やがソフト上の車で追跡してネット捜査局に通報するなどというわけのわからない場面が出てくるので、想像力をたくましくするしかない。これからは、ますますこの手のSF物が出てくると思われる。
 私のよく見るアメリカのテレビ映画のスタートレックも、もともとは24世紀の宇宙探検の話であるが、場面が一挙に29世紀へと飛んだり、銀河系から飛ばされて何万光年も旅をしたりと、時空を超えての舞台設定が多い。想像力をありったけ働かせないと、理解しにくいところもある。つい先ほど始まったばかりの21世紀の現実の世界は、まさにドッグ・イヤーの仮想の世界並みのスピードで走り出したようである。しかもその行き着く先はというと、従来の伝統的な知識を詰め込んだ旧式の頭では全く見当もつかない。そんなことを思えば、こんなSF物など、いやいや目の前のパソコンに導入した新ソフトなど、ぜーんぜんたいしたことないというのは、やっぱり強がりなのだろうなぁ。まあせいぜい、デシタル・デバイドのこちら側にいるように努めていきたい。

(平成13年 1月21日著)
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