This is my essay.








 2年ほど前のこと、秋葉原で贔屓にしている電気店から、我が家にチラシが送られてきた。普通なら、色々な電気製品一般が掲載されているのに、その時はどういうわけか、洗濯機のみ、それもM電器が開発したとかいう一種類の新型洗濯機だけの宣伝だった。

 その宣伝文句を見てみると「わが国で初めての斜め式ドラムで、水と洗剤が節約できる」というものである。一般の全自動洗濯機の回転するドラムは、日本では縦に置かれており、欧米では横型が多いが、この洗濯機は何とそれが「斜め」に置いてあるという。なるほど、ドラムが斜めだから、そこに入れる水の量はそれだけ少なくてよいとう理屈になる。そして洗い終わったら乾燥までしてくれるというのであるから、これは結構な製品である。まさに、コロンブスの卵ではないか。普通は「マネシタ電器」と陰口をたたかれているこの会社にしては、よく考え付いたと感心し、ちょっと見直さなければと思った次第である。

 私も家内も新しいもの好きなので、大いに心が動かされたのである。でも、まだ現在の洗濯機がちゃんと動いているし、それに20万円という価格も、洗濯機にしては破格の値段である。別に今急いで買わなくとも、あと1〜2年ほど経てば、もっと安くなるだろうと思い直して、そのときは注文することはしなかった。

 それから月日が経ち、いま使っている洗濯機のパッキングがやや緩くなってきた。そろそろ買い替え時かなと思っているときにちょうど、Aデパートから「秋のM電器フェア」というチラシが届いた。液晶テレビなどが並んで載っている中で、この新型洗濯機もあったのである。しかもチラシには「この価格表は、すべて特別価格です」とある。そこでこの「ななめドラム式洗濯乾燥機」の価格はというと、「135,000円でご提供します」とある。「ははぁ、2年間で3割も下がったのか。では、そろそろ買い時だなぁ」と思ったのである。

 しかし注文する前に、私も日頃インターネットに親しんでいると自負しているわけだから、ちょっと調べてみようと思い立った。そういえば「価格ドット・コム」というのがあったと思い出し、それを開いてみたところ、まずびっくりしたのはその価格。何と、95,980円とある。これでは、Aデパートで買う客は、4万円も払いすぎではないか。

 次にびっくりしたことは、その評判の悪いこと、悪いこと。「全自動洗濯乾燥機なのに、エラーで何度も止まってしまうし、乾燥は湿っているか、しわしわ。シングルのタオルケット三枚は脱水ができずに必ず止まってしまう」とか、「汚れ落ちについては、赤ちゃんの食べかすなどはそのままついてでてくるばかりでなく、乾燥時の熱にやられ焦げ付いてこびりついて出てくる、ハンカチなどを手洗いしてから入れても握りこぶしのグーのままくしゃ玉となって出てくる」とか、さんざんである。販売店に返品を求めた消費者も何人かいるようだ。評判が良かったのは、唯一そのモダンなスタイルだけである。

 この辺の事情は、販売店の店員なら、とっくの昔に承知しているらしい。では、なぜそんなものをわざわざ選んでAデパートが売るのか、このあたりに現在のデパートの抱えている@製品知識の乏しさ、A専門知識の欠如、Bセンスのなさ等々の構造的問題が潜んでいるように思える。こんなもの、インターネットで調べればすぐにわかることではないか。もっとしっかりしてもらいたい。

 それと、返す刀ではあるが、M電器についても、物を申し上げたい。このインターネットの掲示板が正しいとして、こんな返品が相次ぐような製品を作って売っていては、お宅の信用にかかわるではないか。駄目だとわかったら、さっさと製造を中止すべきではないだろうか。もっとも、M自動車の乗用車のように人命にかかわるという性格のものでもないので、もう少し、歯を食いしばって開発を続けてみるというなら、それも結構であるが、完成度の高いちゃんとした製品ができるまでに、開発途上品を買わされる消費者こそ、困ってしまうのである。

 ところで、インターネットがなかった一昔前には、こういう消費者の口コミ情報が、こんな形で誰でも見られる形で流通するとは、メーカーも消費者自身も、思ってもみなかったことである。消費者が製品を選別できる情報を手に入れた以上、自動車はもちろん家電製品についても、メーカーは欠陥を隠そうとかごまかそうなどと考えない方が、身のためであろう。


(平成16年11月 1日著)



 上の記事を書いてからさらに6年という歳月が経った。それまで頑張ってくれた我が家の洗濯機が、動いていても時々止まるようになった。それで、あれこれいじっているうちに再び動き出して復活したかに見えたのだが、それもつかの間のことで、とうとう全く動かなくなった。買ってから14年目にして、その寿命を迎えたのである。

 それでは新品を買おうと思って、まずインターネットの価格比較サイトを開いてみた。ところが、どうもよくわからない。パソコンなどと違って、この分野については、私には土地勘が全くないのである。「仕方がない、それでは現物を見に行こうか」と思って、有楽町のビックカメラに行ってみた。すると、あるはあるは、たくさんの洗濯機がブンブン回っている。縦ドラムと斜めドラムとがあるようだ。斜めの方が、使う水の量が少ないとのこと。また、オゾンを利用して汚れを落とすというものもある。特に食べ物の汚れが落ちやすいらしい。その他色々あって何が何だかわからなくなりそうだが、もう夫婦二人だけだから容量は少なくていいし、コンパクトにまとまって洗濯から乾燥までひととおりやってくれるのがよい。そう思って見回し、手近なところで、三洋電機のAQUAシリーズAWD-AQ4000という洗濯機にした。価格は10万円少しで、まあこんなものだと思った。

 さて、実際に自宅へ配送してもらい、所定の位置に据え付けた。そして、動かしてみたところ、前の洗濯機と比べれば、洗濯時も乾燥時も音はとても静かだし、使う水の量はこんなに少ないのかとびっくりするほどである。洗濯コースは40分もかからないで終わる。それにもっと良いことは、乾燥コースにすると、特にタオルが、ホテルに備え付けてあるもののように、ふかふかのふわふわになって仕上がるという点である。これだけでも、買って良かったとしみじみ思う。ただし、洗濯して直ぐに乾燥をするコースを選ぶと、一部の洗濯物がうまくいかない。つまり、外側だけ乾いてまるでおにぎりのような形になり、洗濯槽の中にへばりついてしまっている。比較的小さい洗濯物が時々そうなるのだが、これはいただけない。これだけが不満といえば不満であるが、そうしたことがないようにと、工夫することにした。洗濯コースが終わった後にまず機械を止めて中の洗濯物をいったん外へ出し、しかる後にその洗濯物を手で広げてから再び洗濯槽に放り込んで乾燥させることにしている。ちょっとした手間だが、乾いてふわふわになったタオルを使えると思えば、何ということもない。そういうわけで、これから十数年、家内共々この洗濯機のお世話になるつもりである。



(平成22年 7 月7日)
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