悠々人生のエッセイ








 私(A)のテニス仲間に、日本を代表する商社マン(B)がいる。その人との、テニスの合間で一服しながらの、とりとめない会話である。我ながら、何とも気勢の上がらないことおびただしい。

A 私の大学の同級生で、50歳の早期退職を選んだ人がいてね、我々が聞くとびっくりするような額の退職金をもらって、会社を辞めたんですよ。そしてすぐに、IT関係の会社に再就職することができて、皆で運がいいな、よかったなって、一緒に喜んでいたら、それが何と、一年もしないうちに、その会社を辞めざるを得なくなったんです。そして、いろいろと求人を当たっているのだけれど、去年の今頃とは求人の雰囲気が一転して悪くなり、適当な仕事が全くないって、いうんですよ。中年受難の年ですね。どこか、いいところありませんか。


B その人、大学のクラス会に出てきたのでしょ。それなら、まだまだ良い方ですよ。まあ、生活には全然困らない明るい失業者って、いうところですね。辞めた人の中には、とってもそういう場所に顔を出せないってという人が多いんです。この2〜3年は、経済もこういう暗い調子が続いて、大企業っていったって、危なくなることもありますからね。どこも相当、無理してやっとこさでしょう。いいところなんて、どこにもありません。


A それもねぇ、去年に比べて、今年の経済は確実に悪くなってきていますね。経済だけでなく、どの分野をとっても、新規巻き直しが必要ですね。


B そうそう、1990年からの10年は、まさに失われた10年間ですな。中国の文化大革命をあざ笑っていられません。全く日本のどの分野でも、世界史に残る失態を演じて、そのくせ、それが失態だったということすら、気がついていない。


A まさに、その通りですな。企業の経営者も、政治家も、会社員も学生生徒も、みーんな、サボっていたのか、変化を知らないふりをして見過ごしていたのか、臆病だったのか、ともかく皆その役割を忘れてしまっていますね。


B 若い連中は全く働かない。こんな高い給料がいつまでも続くと勘違いしている。教育は、国民に迎合して低いレベルに無理して合わせて、優秀な学生やリーダーシップの育成をサボっている。政治家は、永田町の論理でしか動かないので、国民から遊離しているどころか、国際情勢から全く外れてトンチンカンなことを繰り返している。こんな馬鹿な国ではなかったはずだ。


A 若い連中の給料については、国際比較があります。うろ覚えですが、日本が一番高くて、月27万7千円、アメリカが27万3千円、台湾が14万円、フィリピンが2万2千円、そして中国がたったの7千円ですからね。これに国内の馬鹿高い土地代や電気代にサービス料金を入れたら、よくこれで企業間競争がやっていけますなあ。かつての猛烈に働いた時期の日本は、アメリカに輸出ドライブをかけて国際摩擦を引き起こていましたが、今度はそれと一変して攻守所を変える立場になって、中国などに逆にやられますよね。ユニクロにしいたけやネギどころではない。これが全産業に及ぶのは時間の問題ですね。


B それに、私などは教育が心配です。国際競争力をつけなければならないというのに、教科書の内容を三分の一も削るのですから、文部省は何を考えているのでしょうかね。低い者の程度に合わせるなんて、悪平等もいいところですな。勉強に付いていけなければ、落第させればいいんですよ。それに、東大に入ったって、教育内容はお粗末ですね。世界の大学ランキングで43位なんて、どうしようもありませんな。ちょっと気の利いた親は皆、子供をアメリカに高校から留学させてアイビーリーグの大学を出しますよね。そうしないと、世界に通用する人間は育ちませんよ。


A いや、全くおっしゃる通り。それにしても、若い人の覇気のなさとその日暮らしの安逸な傾向は、国を滅ぼすことにもなりかねませんね。日本がじり貧になっていくのが実感するのは実に悲しいですな。


B そうそう、島国で周りしか見ないからでしょう。一時のイギリスと同じ雰囲気になってきました。


A あのイギリス病は、手厚い社会保障で働かなくとも食べていけるという風潮が生まれて、それが仇になったようですね。しかし、日本はまだその段階に至っていないのに、この調子ですから。豊かになって社会資本や個人の財産を充実させてから、衰退に向かうのならまだましなのですが、そうではないところがいけません。ところで、その私の同級生については、考えようによっては、再就職なんてやめてしまって、そのまま本当にリタイアするのも手ですね。アメリカ人の理想は、50歳前に引退というわけですからね。

B そうですな。退職金がたくさんあれば、当分は食べていけます。何もあくせくしなくても・・・。いやいや、これじゃ、われわれも日本の没落の一因を作っているのかも。

A いや、まったく、そりゃ、いけませんな。






(平成13年 5月18日著)
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