This is my essay.








 最近の新聞の経済欄を賑わす事件は、西武鉄道株主の虚偽記載と、ニッポン放送をめぐるライブドア・フジテレビ間の攻防という二つの話題ばかりである。いや、もはや経済面から社会面化してしまっているのではないだろうか。これらのせいで、ソニーの経営トップに初めて外国人が就くという3月7日の特大ニュースも、その陰にかすんでしまった。

 前者の事件は、長年「コクド」を通じて西武・プリンスホテル・グループの帝王として君臨していた堤義明氏が3月早々に逮捕されて、最高潮に達した観がある。現在、取り調べ中であるが、それにしても、その取り調べの内容がポロポロと頻繁に新聞に載るのは、いささかどうかと思う。しかし一般大衆のひとりとしては、まるで三文劇を観ているごとくで、それはそれで、わかりやすいのも事実である。また、ついこの前まで世界一の金持ちとしてフォーブズ紙に取り上げられた人が、一転して塀の中とは、まるで天国から地獄への逆さ落としである。祇園精舎の鐘の声が聞こえてきそうなのは、私だけではあるまい。

 そもそもコクドと西武鉄道については、従来からいろいろと言われていた。曰く、コクドはあれだけ資産がありながら、利益を上げていないということでで法人税をほとんど払っていない。投資と称して借金ばかりして、その金利支払いという名目で意図的に利益を出していないからだ・・・とか、あるいは、西武鉄道は踏切の立体化も混雑率の緩和も、同業他社に比べてひどく遅れている。総帥が関心を持たないからだ・・・とか、その他もろもろである。確かに私も一度、早朝の出勤時間に西武線の駅で池袋方面の電車に乗ったことがある。ところが、駅のホームはたくさんの人々であふれんばかりであったし、車内も押しつぶされそうなひどい混雑であった。もう二度と乗りたくないと思ったものである。このような状況で長年、マイホームから都内の勤務先や学校に通わなければならない通勤客に、心から同情する。これというのも、西武鉄道社内のどこかで、無理があり経営が機能していなかったためであろう。

 いずれにせよ、上場企業がいきなり上場廃止となり、長い間コツコツと買い求めてきた西武鉄道株が三分の一まで大暴落したばかりか売るに売れなくなったのでは、一般株主は浮かばれまい。それに対して、堤氏から売りつけられた大手企業が売買契約の無効という形で損失を被らないということからしても、あまりに均衡を失するではないかということで、厳罰を望む声が多い。全く、その通りであろう。しかし、これを契機に有価証券報告書の訂正を求めたところ、590社以上から訂正報告があったということなので、これまで取締当局や証券取引所は何をやっていたのかと言われても仕方がないところだ。

 後者の事件は、片やライブドアのホリエモンこと堀江貴文社長と、彼に攻め込まれた老舗フジテレビの日枝久会長との戦いである。堀江氏が若干32歳、日枝会長は67歳と聞く。孫のような人が、お祖父さんのような人に挑むという珍しい組み合わせである。この両者の青と老の組んずほぐれつのタッグマッチであるし、いずれも珍手奇策を繰り出しての大攻防であるから見ごたえがある。ホリエモンはラフなセーター姿でべらべらしゃべり、日枝氏も負けてはおられないと、黒っぽいスーツを着こなして早朝の自宅前インタビューをこなす。まったく対照的で、お茶の間の話題を独占してしまっている。

 この事件は、ライブドアが突然、@市場の立会外取引で35%ものニッポン放送株を取得して筆頭株主に一躍躍り出たことから始まった。これが第一ラウンドとすると、これに応じてフジテレビ側が、ATOBの目標を50%超から25%つまり、B相手のフジテレビに対する議決権を封殺できる水準にまで引き下げて対抗し始めたのが第二ラウンドである。ライブドアは引き続き市場でニッポン放送株を買い進めていき、3月8日には45%程度になった模様である。その間、C2月23日にはニッポン放送がフジテレビ側に4720万株分の新株予約権の付与を取締役会で決議した。フジテレビがこれを全額行使すれば、TOBによらずに64%の株を支配できることになる。これは、当然のことながらライブドア側が法廷闘争に持ち込んで、東京地裁の判断待ちである。3月7日がフジテレビ側のTOBの締め切りで、どうなるかことかと注目の的であったが、Dフジテレビが当面の目標の25%どころか三分の一を超える36%強を獲得して、第二ラウンドは終了した。

 かくして、まだまだ戦いの最中であり予断を許さない。これまでも仕手戦とか買い占めとかはあったものの、その攻防の詳しい内容はベールに包まれていることが多かった。それに対して今回のこの両者の争いは、公然と衆人環視のもとで行われているので、一挙手一投足が相手にも全国民にも丸見えの状態で行われている。つくづく、時代が変わったものだと思う。

 このように評している私は、これでも商法や会社法に多少は通じているつもりであるのに、それにしても今回両者から繰り出された@からEまでの珍手というか奇策というか、これらの法的手段の選択には、首を傾げている。実はその前に、◎ライブドアがリーマン・ブラザーズから800億円を手当てするために、第三者割当方式の転換社債型新株予約権付社債を発行したという問題もある。つまり、リーマンが全額を買い取ってそれを株式に転換したうえで投資家に販売するもので、その転換価格は要するに時価の1割安だから、その分がリーマンの取り分になるらしい。だから金利はゼロである。いいことずくめのように思えるが、ホリエモンからの借り株とセットになっているので、それでカラ売りをして株価下落をさそって株式転換を容易にしていると批判される。そもそも、市場実勢とかけ離れて必ず1割も儲かるというのは、不公平ではないかとも思う。

 次に、上記@というのも、市場外ではないからTOBにかける義務はないのは確かであるが、これは機関投資家などが安定した売買を成立させるために設けている仕組みなので、こんなTOB回避の奇襲をかけるために使われるのは、どうかと思う。これがまかり通るならば、TOBなど何のためにあるのかということになる。そもそもこのあたりから、仁義なき戦いの様相を呈してきている。Aも、法律を読めば一見、TOBで買う株券の数の目標を引き下げることはできないように思えるが、金融庁の判断では、それはいいということらしい。理由は、下限目標を引き下げただけで、それを上回っても買うということであれば、違反しないとのこと。それではBはどうかというと、確かに商法第241条第3項は、そのように規定している。フジテレビがニッポン放送の株を4分の1以上買うと、ニッポン放送のフジテレビに対する議決権が失われる。ただしこの規定は、親会社と子会社とが株を持ち合って外部の監視の目がとどかないようなことがないようにと、規定されたものと記憶している。そもそもこういう敵対的買収への対抗策として用意された条文ではないはずなのだが・・、まあ、あるものは使ったというところか。それにCは、この中で最も根拠があやしいと思う。平時でしっかりとした資金需要が見えているときに、こういう方策をとるのは、実需があるのだからもちろん問題ない。しかし、こんな時期にねぇ・・・買収つぶしのポイズン・ピルそのものと思われても仕方のないところではないか。近々、東京地裁の判断があるものと思われる。最近の東京地裁は、書籍の発行前差止めとか、青色発光ダイオード訴訟の200億円の判決とか、天下の耳目を集める判決をよく出すから・・・、これもどうなるか目が離せないところである。

 Dのように、フジテレビが3月7日までに議決権の36%強を獲得したということなので、特別議決権を手にしたことになる。ライブドア側としては、50%を目標に買い進め、それを手にした瞬間、あるいは手にしなくとも他の株主と連携して過半数を制し、6月で任期が終わる経営陣を定時株主総会で総入替えするかということになるだろう。ついでに余計なことかもしれないが、私がライブドアの代理人となったと仮定して、何か良い案はあるだろうか・・・。そうそう・・・これはどうか。要するにニッポン放送がフジテレビの株を25%以上持っているから、議決権が消滅してしまうのである。だとすれば、ライブドアがニッポン放送の経営権を握ったあと、一時的に25%をわずかに下回るようにすれば、議決権は復活するのではないか。そうなって、Mファンドか何かしらないが同志を募って一緒に議決権を行使すれば、かなりフジテレビの経営を左右できると思われる。これは、お金を使わないやり方だ。それとも、25%にこだわりたい、少しお金がかかっても一向に構わない、というのであれば、経営権を握ったあとでニッポン放送の持つフジテレビ株を買い増して25%以上にしてしまえばよい。すると今度は逆に、フジテレビ株側がニッポン放送の議決権を失って、おあいこになる。いや、それどころかライブドアが単独で特別決議が可能となるのではないか。やはり、ライブドアが過半数を制すると、フジテレビにとっては、非常にやっかいなことである。

 それにしても、ライブドアの脆弱なところはCの点である。裁判所でフジテレビ側への新株予約権の大量付与が合法とみなされれば、ライブドアにとっての情勢は暗転して一挙に敗北する。要するに、この訴訟が天下分け目の関ヶ原ということになるものと思われる。もっとも、このように周りで囃し立てるのは、いささか大袈裟かもしれない。いずれにせよ、こんなものは国家の大事でも何でもなく、ゲーム感覚のマネー・ゲームにすぎないのだから。

 私の周囲の人たちに感想を聞くと、若い世代ではホリエモンに共感する人が多い。既成のエスタブリッシュメントに挑戦している姿が、かっこいいとのこと。しかし、年配の世代はもちろん否定的で、こんな「お金万能」の新人類が出てきては、世も末だとまで評する人もいる。まあ何事も、既成の秩序に挑戦していかなければ成し遂げられないのは事実である。しかし、それにしても、奇襲から始まって成金的にかき回すだけでは、得るべきものも得られないのではないだろうか。喧嘩するにも旗印が大事で、放送とインターネットをどうやって融合するのかというビジョンと信頼性がホリエモンの課題である。他方、フジテレビとしては、長年放置してきた問題のツケがここで意外な形で噴出してきたと思われる。

 まず、3月中旬に新株予約権の発行について裁判所がどうさばくか、3月末に特定少数株主による支配が90%を超えたとして直ちに上場廃止となるか、それとも80%台に収まって1年間の猶予が与えられるか、6月までにライブドアが過半数を制するかなど、ここ数ヶ月の推移について国民の関心は盛り上がり、ますます桟敷観戦が続きそうだ。

(平成17年3月 8日著)



(参 考)

@ 証券取引法第27条の2
 ・・・取引所有価証券市場外における買付け等は、公開買付けによらなければならない。

A 証券取引法第27条の3 ・・・当該公開買付けについて、その目的、買付け等の価格、買付け予定の株券等の数・・を広告しなければならない。
  証券取引法第27条の3第3項 買付け等の価格の引下げ、買付予定の株券等の数の減少、買付け等の期間の短縮その他の政令で定める買付条件等の変更は、・・・行うことができない。

B 商法第241条第3項 会社、親会社及子会社又ハ子会社ガ他ノ株式会社ノ総株主ノ議決権ノ四分ノ一ヲ超ユル議決権又ハ他ノ有限会社ノ総社員ノ議決権ノ四分ノ一ヲ超ユル議決権ヲ有スル場合ニ於テハ其ノ株式会社又ハ有限会社ハ其ノ有スル会社又ハ親会社ノ株式ニ付テハ議決権ヲ有セズ



【後日談】

 さてそれで、3月11日に出た東京地裁(鹿子木 康裁判長)の判断は、ライブドア側の新株予約権発行仮処分の申立てを認めた。報道によれば、@ニッポン放送の増資は現在の経営陣の経営権の維持を主な目的としている、A仮にライブドアがニッポン放送の支配権を取得しても同社の価値が著しく毀損するとは言い切れないとし、さらにBライブドアが時間外取引を利用してニッポン放送のTOBを行ったのは証券取引法に違反するとの主張については同法に違反していると認めることもできないとした模様である。

 事態はライブドアの思惑どおりに進展しつつあり、これでかなりの優位に立った。次の課題として、@ライブドアが過半数を制するか、Aニッポン放送が上場が維持できるか否か、B6月の株主総会での経営陣の帰趨、Cライブドアによるフジテレビ株の取得があるか否か、D今回の差止請求の本訴、Eニッポン放送が名簿書換えを受け入れるか否か、Fフジテレビ側のニッポン放送との取引の見直しなどが問題になっていくものと思われる。



(平成17年3月11日著)

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