This is my essay.








 臨海副都心に「大江戸温泉物語」という温泉施設が3月に開店したという。「物語」などと、とても人を食った名前だが、パンフレットには、「湯ったり楽しむ江戸風情」、「湯けむりたつタイムトラベル」、「浴衣を着たまま、足湯めぐり」、「江戸前の味覚に舌鼓」、「江戸情緒あふれる町並みを散策」などと、旅心をそそるキャッチフレーズがならんでいる。気にはなっていたので、そのうち行ってみようと思っていた。

 ところが突然、身内が上京してきて、ここを訪ねるという機会があったので、これ幸いと、一緒に行ってみた。場所はテレコムセンターの近くの、瓦屋根の低い建物である。パンフレットによれば、浴場としては、内風呂、露天風呂、足湯、砂風呂があり、中には、広小路、八百八町、中村座があるという。

 玄関に着いた。その体裁は、ちょうど「千と千尋の神隠し」の油屋風のおかっぱ頭のごとき入り口である。期待が高まる。雨の日だというのに、中は、ごった返していた。法被を着たおじさんや若い女の子がうろうろしている。団体さんの添乗員のようにも思えたが、どうやらこの温泉の従業員らしい。しかし、それにしても全く何をやっているんだと言いたくなるほど、うろうろ・ぼんやりとしていて、客としては、どこに行って何をしていいやらいいのかわからない。観察していると、まず個々人が勝手に靴を預ける必要があるらしい。それから、列をなしてチェックインするようだ。我々もそのようにする。ところが、これが全く無駄な列だと思った。さんざん並んだあげく、首に下げて中で使う札をくれて、入場料を支払わされ、ついでにさきほどの靴を入れた靴箱の鍵を取られた。これは食い逃げに対する担保らしい。そして出るときにまた、中で使った分を払うらしい。それなら、最初に入場料を取らずに最後に合わせて取れといいたい。

 やや不快な気分で、次に進もうとすると、「越後屋」なるところで、中で着る浴衣を選べという。特に女性の浴衣は、竹久夢二風のもの、浮世絵風のものなどがあって、なかなかカラフルである。もちろん家内も着たが、なかなかよくお似合いで、見直した。男性用のものは、たとえば相撲取りの模様がいい。飾ってあったときは、そうでもなかったが、とりわけ太った男が着ると、これがよく江戸風景に調和していた(もちろん、私はこれが似合う体型ではないので、着ていない)。

 そういうわけで、やや機嫌を直して中に入った。途中で暗くて人がごった返すようなところがあって、これはいったい何だと思ったが、暗さに眼が慣れるにしたがって、ここがパンフレットにいう「火の見櫓」、「八百八町」、「広小路」だと気が付いた。それにしてもねぇ、あたりが暗すぎる。「広場に軒を並べる居酒屋、そば屋、だんご屋、みやげもの屋を冷やかしながら浴衣姿でそぞろ歩けば、町衆気分も高まって・・・」なーんて書いてあるけど、ちょっと言い過ぎだ。もう少し明るくして、都々逸とか江戸的な音楽をさりげなく流し、花火の音や映像を見せ、真ん中の鐘楼をライトアップするなど、いろいろと工夫すべきである。

 大広間があった。これは昔々見た田舎のレジャーランドのごとくである。ただっ広い畳の間に、低い机と座布団がたくさん並んでいて、あちこちで人がマグロのように、ごろごろと寝転がっている。おまけに、舞台と緞帳まである。そこで一息ついて、湯屋を見に行った。まず内湯だが、本当に狭い。湯船は三つで、うち一つは高いところにあるが、いずれも人が群がっていて、パンフレットにある「ゆったりとした気分」など味わえるべくもない。早々にあきらめて、露天風呂に行く。寒い日なので、あまり人がおらず、これは気持ちがよかった。ただ、頭の上には雨が落ちてくるし、寒いので、あまり長居をせず、建物内に戻った。掲示板には「外の百景を楽しんで」とあるものの、外をみれば、港のガントリークレーンが目に入り、とても江戸情緒どころではない。それからいったん内湯部分から出て、足湯へと行った。しかし、外は雨だから本日中止ということで、残念なことに行けなかった。うーん、欲求不満がつのる。

 結局、大広間に戻って、家族とおしゃべり。積もる話もあり、これが一番おもしろかった。それから二階部分に行ったが、何にもなく、くたびれ損というところ。パンフレットは「大江戸縁日をやっています」とあるが、わずか二つのブースにそれぞれ一人ずつ若い人が所在なげに座っている。アルバイトの暇つぶしではないのだから、もうちょっと演技することを教えればいいのに。ディズニーランドを見習えと言いたい。そうこうしているうちに、入場後、3時間以上が経ってしまった。土日は4時間が限度らしい。

 というわけで、ここは問題というか、課題の多い施設だと思う。江戸情緒を売り物にするには、設備不足だし、そもそも従業員の教育がなっていない。やはり、素人が運営しているからだろうか。そういえば、警備会社などが出資していた。開設して一ヶ月ということを割り引いたとしても、まず、リピーターは期待できないような施設である。地方からの一回限りのお客を狙うのがせいぜいなところで、このままだとそれこそ5年以内で閉鎖されると思うが、どうだろうか。








(平成15年4月19日著)
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