悠々人生のエッセイ








     明けまして、おめでとうございます。

 新春を言祝ぎ、本年も、皆々様のご健康とご発展を、心からお祈り申し上げます。新年に期待をふくらませ、という気持ちでいたいのですが、昨今の内外の状況をみると、明暗とりまぜた材料がある中でも、困ったことに、明るい要素は次第に少なくなってきているような気がします。

 まず明るい材料としては、東京に住んでいると、大都市にふさわしい大きな建物や新しい空間が続々と生まれてきていて、豊かな都市生活を満喫できるようになってきたことです。これというのも地価下落の好影響でしょう。たとえばここ数年の間に、臨海副都心の台場・有明地区の整備が相当進みました。レインボー・プリッジを渡ると、従来からあったフジテレビやホテルに加えて、アクア・シティやデックスビルの辺りにいろいろなものが出来て良くなり、それに新タイプの博物館である科学未来館も完成しました。年ごとに充実してきています。同じ東京湾沿岸である幕張地区には、一昨年に出来上がったディズニー・シーが中高年層にも支持されて、入場者数や売上げは予定を大きく上回ったようです。加えて昨年からは高層ビルのラッシュがはじまり、秋に東京駅前の新丸ビル、12月には赤坂のプルデンシャル・タワーと汐留の電通ビルがオープンし、特に汐留地区にはこれに引き続いて10を越す高層ビルが建築中です。それに今年になると、赤坂、品川などで一連の高層ビルが次々と完成する予定です。いままでの東京の高層ビル群といえば、新宿副都心しか思い浮かばなかったわけですが、それ以上のものが東京のあちこちに一挙に誕生することになります。

 こうした仕事や住環境の整備によって、人口の都心回帰が進むものと思われます。これまでは、一時間以上かけて郊外から通うというライフ・スタイルから、ちょうどニューヨークのように都心のアパートから都心のオフィスに通うという、職住近接の都市生活が標準的になるでしょう。人口の少子化と高齢化がこの傾向に拍車をかけるものと思われます。それに、道路でも、東京をとりまく東京外郭環状道路(千葉−三郷−大泉−太田)、首都圏中央連絡自動車道(木更津−つくば−久喜−鶴ヶ島−日の出−海老名)の二つの道路が都心の通過交通を迂回させ、そして首都高速中央環状線が都心の交通を便利にするものと期待されます。これらは、首都圏の生産性や居住性を大きく向上させるでしょう。

 このような首都圏の明るい材料を見ていると、現下の日本の経済や財政が相当悪い状況にあるとは、まったく思えないわけですが、それにしても、現実に目にする諸般のマクロ指標は、誠に予断を許さない状況を示しているものと考えます。

 まず、国内ではデフレ傾向はますます進み、平成11年以来、これで4年連続で消費者物価指数が下落したことになります。もっとも、これ自体は悪いことではありませんが、名目数値に依存する企業の業績は低迷し、担保となる土地価格に左右されてきた銀行の不良債権問題を一層悪化させています。しかも賃金はどんどんと切り下げられつつありますので、いわゆるデフレ・スパイラルはなかなか止まる兆しもありません。昨年秋には、銀行問題のハードランディングを図るという担当大臣の発言などをきっかけに株価が落ち込みをみせ、12月半ばには8,200円台にまで下落して、バブル時の五分の一にもなろうかという悲惨な水準です。これでは、もう株式は、持っておくべき資産としての価値が激減しつつあるといっても過言ではありません。

 しかも、暮れの予算編成では、とうとう、国の財政の公債依存度が44.6%になってしまいました。アメリカは黒字財政、独仏などは確か10%程度ですから、果たしてちゃんと返せるのだろうかと心配になります。ムーディーズも、まんざら的はずれのことを言っているわけではないという気すらしてしまいます。近い将来、景気が大きく改善して税収が自然に増えるか、消費税を中心に大増税を図るか、それとも景気に悪影響を与えない範囲内で歳出を大幅に絞るか、という三つのシナリオしかありません。第一の景気回復による税収の回復は、アメリカが経験したことです。当時のアメリカは、特にITを中心とした新興産業の勃興期にありましたが、今の日本には、そういう景気回復のバネが見当たりません。それどころか、隣国の中国からのデフレの大波をどう乗り切ろうかということに経営資源が割かれていて、とてもそれどころではないという状況です。ノーベル賞の田中耕一さんの技術は、確かに一服の清涼剤でしたが、彼の作った分析機器は、結局、一台しか売れなかったということですので、厳しく言えば、企業経営としては失敗したのでしょう。せっかくある社内の技術を生かし切れていないという気がします。

 ところが、わずか数年前にアジア通貨危機に見舞われた韓国は、財閥の解体と再生、不良債権処理を急速に進め、企業はいまや完全に甦っています。とりわけ韓国の半導体大手のサムスン電子の急激な発展には、目を見張る思いです。その株式の時期総額は、ソニーには劣りますが、日立よりも大きく、富士通やNECは、何とその五分の一程度に満たないという状況です。もちろん、国全体としては、相変わらず労働問題が経済のアキレス腱ですし、南北問題も国の将来に影を落としていますが、それにしても、国際競争で勝ち抜く実力のある企業が出てきたのは、大いに評価することができるというます。

 もちろん、その点では日本もまだまだ捨てたものではありません。トヨタ、キャノン、ソニーといった国際的に活躍し、かつこの不況の中でも大きな利益を上げている企業がいくつかある限りは、日本経済の屋台骨も、当分は安泰といったところでしょう。最近は、30社リストとか51社リストなどというマイナスの企業評価ばかりが目に付きます。しかし、そういう面に着目するのではなく、国の経済全体として、先にあげた国際的な活躍ができて競争力があり、しかも大いに利益をあげられる会社が少なくとも50社くらいもあれば、経済の浮揚と維持には、それで十分なのではないでしょうか。

 あの日産自動車は、ゴーン社長の下で、わずか2年で再浮上しました。もちろん、ゴーン氏自身は偉いし、彼がフランスから連れてきたスタッフも、相当の貢献をしたと思いますが、しかしあのリバイバル・プランを作成して実行したのは、社内から抜擢された若手です。だから、これと同じことをやろうとすれば、日本人でも十分にやれるわけだと思います。ところが、日産の旧経営陣には、それなりのしがらみがあったし、若手の抜擢という意味では何の手も打たなかった。私の見る限り、この二つの違いが明暗を分けているのだと考えます。かくして、しがらみを排除し、実力のある人に経営を委ねる、ということを通じて、どうか日本の企業に再生と再発展の道をつけてもらいたいものです。

 かくして企業が元気を取り戻し、利益を上げて大いに税を収めてもらえば、あるいは増税や歳出削減という伝統的な措置をとらなくとも、国の財政も次第に回復してくるのではないかと期待するのですが、それにしても、公債依存度が44.6%という現実をみると、その期待は相当に甘いのではないかと思います。

 さて、国際的には、今年早々は、アメリカによる対イラク戦争がまさに始まるかどうかということを、世界の人々が固唾を呑んで見守ることになりそうです。いずれにせよ、日本にとっては、それなりの決断の時を迎えることになります。もちろん、このイラク問題も大事ですが、日本にとってさらに重要な外交問題は、北朝鮮による核開発凍結の破棄と、それに北朝鮮によって拉致された人たちとその家族の帰国問題です。前者は何ともきな臭く、後者は誠に心の痛む問題でして、またこの一年そういう状態で推移するかと思うと、いささかやりきれない気持ちになります。

そういうわけで、国内外とも、多事多難で暗雲の立ち込める年初めですが、こと最近の首都圏の身の回りを見てみれば、さらに生活が豊かなものになっていく気がします。このマクロとミクロの実感の差が、今年の特徴なのかもしれません。換言すれば、日本人のマイホーム化といったところでしょうか。


 あらたまの 年を寿ぎ 集い逢ふ
 家族の顔に 希望みる




(平成15年1月 1日著)
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