悠々人生のエッセイ



寿式三番叟




新富座こども歌舞伎( 写 真 )は、こちらから。

 新聞で、中央区八丁堀の鉄砲州稲荷神社の神楽殿にて、こども歌舞伎があるというので、家内と一緒に見物に出かけた。ちなみに、家内は歌舞伎の大ファンでかなりの知識がある。私はといえば、その昔、結婚前の家内と一緒にデートで歌舞伎座へ見に行ったときに、不覚にも座席で寝てしまった。というのも、その演目が小さい頃さんざん見飽きた忠臣蔵だったり、どういうわけか藤原鎌足が江戸時代に出てきて色々と立ち回るという内容だったから、そんな馬鹿なという気になり、加えて連日のヘビー・ワークのツケがたたって、目を閉じた。すると、そのまま舞台が終わっていたのである。それ以来、無理して歌舞伎の知識を覚えようとはして来なかったから、未だに初心者のままである。

 それにしても、どうしてここに、こども歌舞伎なるものがあるのかと思っていたら、いただいたパンフレットによれば、こういうことらしい。「中央区には江戸時代から沢山の芝居(歌舞伎)は庶民の暮らしの文化として愛されてきました。現在も伝統文化が息づくこの街で『新富座こども歌舞伎』は明治時代に栄えた東京一の劇場『新富座』の名を冠し、平成19年春、地域の方々と共に大都会の地芝居という旗揚げし、おかげさまで今年6年目を迎えました」、「地元の氏神様である鉄砲州稲荷神社での節分祭、例大祭における奉納公演を中心に中央区などで催される各種イベントでの公演を行っております」


寿式三番叟


寿式三番叟


 なるほど、それは素晴らしいことをされている。今回の演目は、寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)、三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)、白浪五人男(しらなみごにんおとこ)である。なお、このほかレパートリーとしては、義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)があり、5月5日の例大祭では、これも演じられるという。

口上を滔々と述べたのは、小学校2年の女の子


 最初に、口上を滔々と述べたのは、小学校2年の女の子だ。その節回しといい、内容といい、なかなか立派なものだった。それが終わると、舞踊の寿式三番叟が始まった。二人が組みになって、最初は扇、次に鈴を振って鳴らす舞であるが、能の「式三番(翁)」から歌舞伎用に作られた舞で、天下泰平、五穀豊穣、千秋萬歳をことほぐおめでたいものだそうな。衣装にせよ、化粧にせよ、演じ方にせよ、これは本物でしかもプロの指導を受けていることが、すぐにわかる。

三人吉三巴白浪の夜鷹役


三人吉三巴白浪のお坊吉三


 次いで、お坊吉三、お嬢吉三、和尚吉三の盗賊三人が出てくる三人吉三巴白浪である。説明によれば、「節分の夜、夜鷹のおとせは昨晩の客が落として行った百両を持ち、その客を捜すために大川端(大川とは、隅田川)にやってきたところ、その百両を振り袖姿の盗賊お嬢に奪われ、川に落ちてしまう。ところがその一部始終を見ていた盗賊お坊吉三と、百両をめぐって刀を抜いて戦う。それを止めに入ったのが、これも盗賊の和尚吉三。やがて争っていた二人は和尚の男っ気に感じ入り、三人揃って義兄弟になるべく固めの血杯を交わすことになった。」

三人吉三巴白浪のお嬢吉三


三人吉三巴白浪の三人組


 どの子も頑張っていたが、私が特にうまいなと感心したのは、お嬢吉三を演じた子である。小学校4年の10歳の男の子だが、夜鷹と話すときには女性のような高い声を出し、お坊や和尚とやり合う時には太い男の声を出すなどと使い分けている。また、目の使い方もよく、しかも女性らしい媚態も感じる本格的なものだった。

白浪五人男


白浪五人男の日本駄右衛門


 最後は、白浪五人男という賑やかな出し物だった。親分の日本駄右衛門を始めとして、弁天小僧菊之助、忠信利平、赤星十三郎、南郷力丸が揃いの小袖に番笠もって演じ、皆とても格好よい。この五人男は、「お上の追っ手を逃れて稲瀬川の堤までやってくるが、捕り手が待ち伏せしている。ここで最後のひと働きをしようとばかりに、潔く『成敗受けん』として啖呵をきり、ひとりひとり名乗りを上げ、捕り手に立ち向かう」というものである。ひとりひとりをよく見ると、それぞれ異なる舞台衣装と化粧が素晴らしい。日本駄右衛門は、ぼさぼさ頭でいかにも盗賊一味のリーダー風。江ノ島のお稚児さんが盗賊となった弁天小僧菊之助は、いかにもかわわい美人風。ガキの頃が手癖の悪い忠信利平は、それらしく装っているが、実は可愛い小学2年生の女の子。赤星十三郎は、こちらも可愛い小学2年生の女の子で、番傘が閉じずにちょっとあせって、見物のひとりが「暦ちゃん、頑張って」と励ましていた。最後に南郷力丸は浜育ちの無頼派ということだが、こちらも美人さんの小学3年生の女の子だった。皆さん、本当にご苦労様。とてもお上手でした。また、例大祭にでもやって来ようと思う。

白浪五人男の赤星十三郎


白浪五人男の弁天小僧菊之助





(平成24年2月 5日著)
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