悠々人生のエッセイ









 町田市で、ダリアの花が満開になったと聞いた。「そういえば箱根に行く途中で町田という駅を通るけれど、まだ降りたことはないねぇ。ひとつ、行ってみようか」という話になり、家内と二人で出掛けた。案外、近くて、千代田線の代々木上原から小田急に乗り換えてわずか30分弱、自宅から1時間もしないうちに、町田駅に着いた。こんなに、近かったのだ・・・。

町田ダリア園



 行き先は、町田ダリア園というところであるが、暑い日で、土地不案内なこともあり、タクシーに乗って行った。途中、鎌倉街道と書かれた道路標識のあるところを何回か通ったが、運転手さんは、鎌倉街道は今ではあちらこちらで途切れているという。現在はその途切れつつ繋がっている道が拡張中のようで、それに土曜日午後ということもあって延々と渋滞していた。道の両側には、一戸建ての住宅が広がっていて、典型的な東京のベッドタウンという風景である。運転手さんに「地図を確かめて来なかったけれど、ここはもう神奈川県に入っているんですか」と聞いた。すると、「いやいやそれが・・・私どもからお客さんに対して、『どこから来られたんですか』と聞くと、『東京から』というので、『ここも東京ですわ。一番の端っこだけど』と答えて、『ああ、そうでしたか、すみません』というのが普通の会話ですわ」という。なるほど、そうだったか・・・知らなくて、失礼してしまった。

町田ダリア園


 そうこうしているうちに、町田ダリア園に到着した。右手に大きな建物があり、これが管理棟らしくて、そこからちょうど山と山の間の谷間のようなところの斜面を一面の花壇にしつらえてあり、その中腹に噴水がある。案内板によると、こちらは、「まちだ福祉作業所」が運営をしていて、「学校教育終了後、在宅をしていて一般の就労が困難な知的障がい者の方たちに、作業を通じて基本的生活を身に付けさせ、社会生活に必要な能力を養うことによって、自立的生活を可能にすることを目的」としているらしい。なるほど、知的障がい者の親御さんたちにとってみれば、確かに学校教育が終わってからが大変である。将来的に自分たちは老いていくし、子供の行く末が心配でたまらないだろう。そういう場合に備えてこのような施設を作り、お花の手入れを通じて、子供たちが自立できるようにと、努力してきたというわけである。

町田ダリア園



 それでは、そうした子供さんたちの努力の結晶を見させてもらおうかと思って、ダリア園の中に入ると、いや、これは素晴らしいと、思わず声が出たほどである。15,000平方メートルの園内に、500品種、4000株のダリアを栽培しているというが、花の色の多様さ、花の形の種類の多さ、そして花の数に圧倒される思いである。花の色としては、赤、白、黄、紫、黒、肌、ぼかしなど、数えきれないほどである。花の形の種類としては、ボール型、スイレン型、フリル型、花火型、菊型、蘭型などと、これまた様々である。これらを同じ「ダリア」という花の名前でひとくくりにしてよいものかと思ってしまうくらいで、薔薇にも匹敵するほどの豊かな花相を呈している。感激しつつ、ひとつひとつの花を、その名前とともにカメラに収めていったのである。その模様を中腹の休み処で眺めていた家内によると、「まるで花から花へと飛び移る蝶のようだった」とのこと。もっとも、歳をとった黒色の蝶であることが、何だけれども・・・。

 さてそれでは、町田ダリア園の皆さんの労作を眺めていただきたい。

町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


町田ダリア園


 全体を眺め終えてからの素人なりの感想だが、ダリアを女性にたとえれば、紫陽花のように可憐で楚々としている和服美人というよりは、むしろその形や色からして、誠に情熱的で激しい印象を受ける花、つまり、カルメンである。元々はメキシコ原産ということもあろう。しかし、説明によると高地の原産のようで、暑さには弱いとのこと。これは意外である。

 ところで、それぞれの種に、千秋美人、夢睡蓮、プリンセスマサコ、思春期、黄桜、みかん娘などと名称が付けられていて、これも誠に興味深い。しかしそのネーミングだが、ついつい日本酒やミカンを思い出してしまったりで、あまり「詩的」とはいえない点が、何やらダリアの庶民性を象徴していると思うのである。もっとも、そうはいっても、恋の季節、マヤの神秘、薫風などと、それなりの雰囲気を出そうとして努力をしている痕跡はある。それは認めなければならないだろう。しかし、正直にいうと、私でも名付けられる程度の名前にとどまっているのは、とても惜しい気がする。
 
 記録ついでに書き残しておくと、町田ダリア園のパンフレットによれば、「ダリアはキク科に属し、メキシコ原産で、比較的冷涼な高原に自生していましたが、江戸時代にオランダから持ち込まれ、独自の改良が加えられて、夏・秋の花として親しまれている」とのこと。また、山形県川西町の「川西ダリア園」が日本一のダリア園とされている。こちらは、そこから球根の寄付を受けたそうだ。

 最後になるが、この作業所の入所者、親御さん、職員の方、そしてボランティアの皆さんに、美しいダリアを見せていただいたことに対して、深く感謝を申し上げたい。




(平成22年7月 11日著)
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